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キープ・ボトル

第一夜

ラウンジに併設されているバーでアルバイトをしたことのあって、常々疑問に思っていたことがある。ボトル・キープについてだ。ボトル・キープとは何か?ぼおっと抱いていたイメージは「常連となるためのもの」という感じで、どうぶつの森で喩えると、気になる住民から「しゃしん」を得るべく、とっかかりとして書く「手紙」のようなものなのだろうか?

 

私が大学生の時分、友人がSNSに写真付きで、『焼酎のキープ・ボトルを作った!みんなおれの名前を言って、飲んでいいよ』という投稿をしていたのを見たことがある。結局それを飲みに行くことはなかったのだけれども。その投稿も相まって、当時の私はボトル・キープについて、ますます訳が分からなくなっていた。

 

しかしアルバイトとして雇われているからには、お客さんへの対応として、いずれはボトル・キープと向き合わないといけなくなるだろう。そうして危機感を覚えた私は、思い切って先輩に聞いてみることにした。曰く『このお店に置いておく、俺の、俺による、俺のためのお酒』。ひとまずどうぶつの森でいうところの「手紙」とは、その性質から違っているらしいということは分かった。

 

このままでは埒があかない。私が働いていたバーには、企業の社長さんやら会長さんがお客さんとしてお見えになることもある。もしも彼らから「君 ボトル・キープを」と頼まれ、「ははあ、会長の、会長による、会長のためのお酒ですね?ガッテン承知。少々お待ちください、えへへ」などと返答しようものなら、生活に窮することになるのは目に見えている。そんな妄想をコロコロ膨らませていると、先刻の先輩から名を呼ばれた。先輩の元へ行くと、先輩は私に「ボトル・キープの時、ウヰスキーを飲まれたとして、オン・ザ・ロックなら代金はいらない。ただし水割りやソーダ割りとなると、それぞれ水代、ソーダ代を頂くこと。いいね?」と仰った。

 

えーと、いつまでたってもボトル・キープへの疑問は解消されなくて、ボトル・キープの謎はキープされたままであるということだ。わからないボトル・キープはキープされ、キープされたボトル・キープはキープ・ボトル・キープであり、ですから……今日はこの辺りでどうかな。