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語らないで 喋ろう

第一夜

人に話をすることはむつかしいと思う。特に自分のすきなものについての話は、とりわけむつかしい。例えば私はORCIVALが好きで、バスクシャツなんかを買おうかどうか逡巡しているとする。何かを買うか買わないかを迷っているとき、いつも私は恋人に相談をするのだけれども、例によって切り出し方に窮してしまうことが多い。

 

ほんとうは素直に「これを買おうと思うのだけれども、どうかな?」とバスクシャツの画像なり何なりを見せながら尋ねるのが一番いいんだろうけど、すきな人には自分の気に入っているものを少しでも知ってほしい気持ちがある。そうなってくると「ORCIVALのバスクシャツを買おうと思うのだけれども、どうかな?」という風に、ORCIVALと口に出さずには居られない。

 

ただORCIVALという単語が喉まで出かかった時、ハッと我に帰ることがある。「果たして私はすきなものについて語り始めようとしてはいないか?」とブレーキがかかるのだ。皆さんも経験があると思うのだが、親密度に依らず、相手から語られると鼻につくというか、平たく言ってウンザリしてしまうことはないだろうか。ましてや語られる事象への興味が皆無となると、メーターは振り切れ、ウザいとさえ感じるはずである。そういったことを悶々と考え出し、口調は豆鉄砲を食らった鳩のようにぼそぼそとしたものになり、いつも「いま何と言ったの?」と聞き返されてしまう。

 

おそらく 誰しもが、相手にどう思われるかなんて考えず、自分のすきなものについて話をしたいはずだ。語りたいはずだ。しかし私のビイドロのような心は、相手の冷たい視線にさらされるとすぐ「ポッペン」と音を立てて割れてしまう。どうすればいいんですかね。ほんとうに。

 

それはそうと件のバスクシャツは購入することにしました。火曜日に届きます。